この記事は、livedoor NEWSでの記事を転載しています。
マルイはいかに「自称日本一残業が少ない会社」になったか?
「赤文字系」など若者向けファッションの発信地から、全ての人に向けた「ダイバーシティ&インクルージョン」の改革に成功したマルイ。
幅広いサイズに対応したシューズ、LGBTにも対応したオーダースーツなど、小売業の常識にとらわれない改革を実現した。
しかし、こうした改革を初めたのはわずか10年ほど前だったという。5000人を超える大企業が、全体の方針を大きく転換できた秘訣はどこにあったのか。丸井グループ代表取締役社長の青井浩に、改革の決め手を振り返ってもらった。
自身もトランスジェンダーで、昨年15万人を動員した日本最大のLGBTプライドパレードを運営するNPO法人・東京レインボープライドの共同代表理事を務める杉山文野との対談連載後編。
無駄な残業は誰もしたくない
杉山:丸井グループは離職率が低いと聞いていますが、人材が多様化する中、いろいろな人が働きやすい職場環境という点で、特に工夫していることはあるのでしょうか。
青井:最初に取り組んだのは、2008年に始めた残業の削減です。それまでの残業時間は、年間130時間もあったので……。といっても、ただ早帰りを強制したわけではありません。
無駄な残業は誰もしたくないんです。社員が「上司が残っているから残業をしなければいけない」という状況が一番いけない。
だから、社内で「残業を減らす取り組みをしたい人は手を上げて」と提案して、手を上げた人を中心にプロジェクトを始めました。いまでは、年間残業時間42時間。自称日本一残業が少ない会社です。
「おじさん」がいけないのではなく、「おじさんばかり」がいけない
青井:僕のキーワードは、「おじさんと残業が大嫌い」なんです。一時期は、経営をなんとかしようとたくさん会議をしていたのに、全く効果がなかった。そうしているうちに、「そもそもこうしておじさんたちが何時間も顔を付き合わせること自体が、問題なんじゃないか?」と気づいたんです。
そこで「おじさんだけ禁止」を徹底しました。少し前にメディアで「おじさん叩き」がありましたが、いけないのは「おじさんだけ」な状態です。おじさんだからいけないのではなく、多様性がないことが問題なのですから。
そこで、いままで会議に参加していなかった女性社員や若手社員にも、必ず会議に参加してもらうようにしました。最初は少しぎこちなかったのですが、最近の若い人たちは人前で喋るのが上手いし、何よりやる気のある人たちに来てもらっているので、有意義な時間になっています。
杉山:「おじさんだけ禁止」はいい言葉ですね。
年長者と若手が強みを生かしあう
杉山:2016年のレインボーパレードでも感じましたが、マルイは社員の積極性がすごいですよね。僕も何度かLGBTの講習会に呼んでもらいましたが、参加者全員が熱意をもって聞いてくれて、本当に驚きました。どうやってあんなに自主性の高い会社を実現したのでしょうか。
青井:ずっと「やらされ感」のない会社にしたいと思っていました。そこで、以前は幹部社員を集めて開催していた中経推進会議で、幹部社員の召集をやめました。新入社員も含めて自主的に参加したいと思う人だけが来る挙手制にしたんです。やる気のある人だけがいるので雰囲気が良いし、情報の伝達もしやすいですよ。
杉山:しかし会議への参加を挙手制にしてしまうと、会議に出ない上司のせいで現場への情報伝達が上手くできないのでは……。
青井:そうした会議は会場の都合上、350人程度しか収容できないので、事前に論文を書いてもらってやる気を判断しています。名前を伏せて審査し、優れた論文を書いた人だけを採用するのですが……。すると上司が軒並み落ちてしまって(笑)。
杉山:それはひどい(笑)。
青井:杉山さんのおっしゃる通り、上司が会議に出られなくなると、上司が会議で得た情報を部下に伝達してリーダーシップを執ることはできません。それで何が起こったかというと、店長が売り場の若者に論文の書き方を聞くようになったんです。また、上司が参加できない場合は、部下に頼んで後から言語化してもらうようになりました。
この方式が定着してからは、優秀な部下を持つことが上司の自慢になりました。内容によってはあえて会議を若手に任せて情報を整理してもらい、帰ってきた部下に報告を聞く人もいるそうです。
若手は発想ややる気を、上司はリーダーシップや経験というように、それぞれの強みを生かせる環境ができてきています。
杉山:上司から部下への一方的な力関係ではなく、上下を超えた関係性になっているということですね。個々人に主体性を求めている企業は多いですが、上司と部下が互いを尊敬しあえる環境をつくるのは、簡単ではありません。
青井:まさにその通りです。最近ではマルイのLGBT施策が外部に取り上げられることが増えたので、社員も自分たちの取り組みに自信をもてるようになりました。
かつてはダイバーシティに懐疑的だった年配層の社員たちも、今では自社の先進的な取り組みを自慢しています(笑)。誰もが自分の力を活かし、自分の在りたい姿に近づけるように、これからも社内外を問わずインクルージョンを実施したいですね。
情報提供元:livedoor NEWS
本記事の掲載元:http://news.livedoor.com/article/detail/16000998/