近年、「コンプライアンス経営」や「CSR」、「CSV」という言葉をよく耳にします。
しかし、それがどのようなもので、企業法務ひいては経営判断とどのように関係するのか、が漠然としているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、コンプライアンスやCSR、CSVなどについて、「戦略」を重視する近年の代表的な考え方をご紹介するとともに、これからの企業法務のあり方についてもご説明したいと思います。
「コンプライアンス」という語の概念変化(戦略化)
かつてコンプライアンス(Compliance)を日本語にするとき、「法令遵守」と訳されることが多かったように思います。
しかし法令を遵守するというのは当たり前の話ですし、「法令を遵守していれば何をしてもよいのだ」という考え方にも繋がりますので、適切な訳語とは言えません。
そこで【コンプライアンス=法令「等」遵守】と捉え、「企業は法令に加えて社内規程や企業倫理をも遵守すべきである」というのがコンプライアンスの基本的な考え方になっています。
近年ではこの考え方をさらに発展させて、法令等を遵守するのみならず、法令の背後にある「社会的要請」に適応することが重要だという考え方が主張されるようになっています。
この考え方を主張する郷原信郎教授は、「社会的要請への適応としてのコンプライアンスは経営上の意思決定と深くかかわることになる」と指摘しています。
また「企業は社会的要請に応えていくことによって収益を確保し社会で活動することができるのであり、健全な事業を営んでいる企業にとってコンプライアンスの問題と経営とを切り離すことができない」ことを理由に挙げています。
――つまり、コンプライアンスを「経営戦略の一環」として捉えようという考え方です。
CSRという語の概念変化(戦略化)とCSVの誕生
一方、コンプライアンスと似た概念として、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という考え方があります。
CSRの考え方を発展させたのが、マイケル.E.ポーターです。従来のCSRでは、営利企業が社会と対立するものという考え方があったり、個々の企業の経営戦略とは無関係に一般的で平板な社会貢献がなされていた、という問題がありました。
CSRを「企業の外から来たやっかいな負担」として外面のよい、時には偽善的とも思えるようなCSR活動が多く見られるのは、このような社会や企業の姿勢にあったのではないかと思います。
ポーターはこれに対し、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という概念を提唱し、「企業には利益を上げる能力があるからいかなる問題も解決できる。社会問題の解決こそ最大のビジネスチャンスだ」と主張します。
すなわち企業と社会は対立するものではなく、密接不可分な「共通価値」を持っていて、企業の経済的発展が社会の進歩を促すという考え方です。
CSVはCSRを企業の付随的活動ではなく経営戦略の一つと捉える考え方であり、「戦略的CSR」と呼ぶことができます。これに対し、従来型のCSRは「受動的CSR」といえるでしょう。
ここまででお分かりのとおり、「コンプライアンスを社会的要請への適応と捉える考え方」と、「CSRをCSVまで発展させる考え方」には共通点があります。
それは、いずれも「戦略的」観点を導入しているということです。
そして現代の企業法務においても、このような戦略的なコンプライアンス、戦略的なCSR(=CSV)の概念を反映させることが非常に重要になってきています。